雨と猿



 

2005年 日本

制作: 大山椒魚 

制作ツール: NScripter

作者様サイト: なし

DL: http://www.vector.co.jp/soft/winnt/amuse/se507236.html

プレイしたバージョン: Ver1.0 (表記なしのため暫定)

 悪友の勧めにより、山深くの旅館「おのや」を訪ねた主人公。時ならぬ雨に迷い、彼が辿り着いたのは、おのやの下働き・猿丸の暮らす小屋であった。

 紆余曲折を経ておのやに宿を取ることを決めた主人公であったが、獣臭漂う禅堂、なぜか旅館の中では姿を見せたがらない猿丸、不可解な主人の態度と、穏やかならぬ出来事が続発する。ただならぬ雰囲気に不安を募らせる主人公であったが、ことの真相にはとある悲しい過去が関わっていた……。

 

 分岐なし、一本道のノベルゲーム。読了までの所要時間は早ければ30分前後、

ゆっくり堪能しても1時間~1時間30分といったところでしょうか。巧みな緩急と情感豊かな語り口が印象的な、雰囲気ある作品です。

 人里離れた山奥の旅館、雨の一夜を舞台にしていることもあり、ゲーム画面に表示されるのはほとんどモノトーンの風景またはシルエットの人物画です。しかし、全編にわたり極限まで抑制された色調とは裏腹に、影絵で表現された人物画は実にいきいきとした動きを見せます。とりわけ主要人物の一人である猿丸は、すばしっこく愛嬌のある人物として作中で描写されるとおり、主人公の言葉に指を鳴らしてみたり、押し入れの中から手を振ってみたり、と多彩な動きで物語を盛り上げてくれます。こうした画面内での細やかな演出と、本文そのものの読みやすさ、軽妙さが、決して少なくない本作の文章量を最後まで一気に読ませるつくりに仕上げていると感じました。

 

 また、作中の舞台である旅館「おのや」にまつわる物語は、現実の出来事をいっさい逸脱しない筋書きでありつつも、恐怖と物悲しさの中に確かな家族愛を感じられる内容となっています。主人公の目を通して描かれる旅館の人々はみな不器用で、大きな苦しみを抱えながらも懸命に日々を生き、前に進もうと努力しています。それだけに本編中、ある大きな出来事がひとつの関係に変化を生じさせ、心の救いへとつなげる展開に目頭が熱くなりました。

 雨上がりの朝に主人公と猿丸の間で交わされる会話、爽やかな結末、そして短いながら衝撃的なその後の展開も含めて、すばらしい読後感を与えてくれるノベルゲームです。

 

 文学的な雰囲気の作品がお好きな方、後味よい物語を読みたい方、短い時間で読書をしたい方にオススメな一本です。雨が降る静かな夜、ヘッドフォンを着けて遊ばれるとより楽しいかもしれません。

 

 

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