BLACK/MATRIX


1998年 日本

製作: フライト・プラン

販売: NECインターチャネル 

プラットフォーム: セガサターン、ドリームキャスト、プレイステーション

  主人公の少年・アベルはある日、記憶を失った状態で目を覚ます。

 大怪我を負い、いつ目覚めるとも分からぬ彼を死の淵から救ったのは、共に生活していたらしき人物であった。静かで満ち足りた生活の中、献身的の看護もあり、アベルはゆっくりとその肉体を回復させていく。しかし、満ち足りた生活はある日、あっけなく終わりを告げた。被差別階級である「白き羽」のアベルと、支配層たる「黒き羽」のご主人さま。階級を超え愛しあう二人の絆は、善悪反転した世界では死に至る罪だった。

 

 善悪の価値観が逆転した世界を描く、ダークかつインモラルな雰囲気のSRPG。奴隷階級「白き羽」である主人公が、自分への愛ゆえ禁忌に触れ囚われた「黒き羽」のご主人さまを救うため旅立つ物語。

 全編を通し苛烈で退廃的な雰囲気のゲームです。世界観、登場人物、シナリオ、システム、全てに一貫して禍々しい気配を漂わせています。

 登場人物からして奴隷である主人公を筆頭に、自由を求めて主人を殺した元剣闘士、弱者のため盗みを続け投獄された義賊、「黒き羽」ながら弱さゆえ虐げられた看守、権力闘争の末失脚した神官など、どこを取っても一筋縄ではいかないキャラクターばかりです。敵方においてもそれは同様で、女装した美青年ばかりを侍らせる神官(自身も女装しています)、愛欲の街を統べる美しい領主、主人公たちを執拗に追う異端審問官の女隊長(なぜか京都弁)など、個性に溢れた面々です。

 

 シナリオ上でも「保護と偽って捕らえられた奴隷の末路」、「今まで倒してきた敵の遺族との戦闘」、などと容赦のない展開が続きます(ちなみに一つ目については、戦闘場面が厨房、マップ名「素材」という点で、察しのよい方はどんな展開かお気づきになると思います)。ただ、救いようのないシナリオが続くわけでもなく、「身分を超えた友情」、「偽善と正義」、「力にすがらない本当の強さ」などを描いた熱い場面も同じくらい存在します。

 良くも悪くも強烈な、独特のけれんみに満ちた物語です。

 

 尖った設定に加え、戦闘システムも個性的です。発動タイミングによって魔法の威力が変わる「魔法バイオリズム」、敵の殺害で入手可能な共有MP(作中での名称はBP=Blood Point、つまり血液)など、風変りながら世界観を際立たせるものばかりです。

 しかし、何と言っても外せないのはユニークすぎる魔法体系。「ゾンビ化」(死亡状態の敵または味方をゾンビ化させる)、「ゾンビ爆」(ゾンビを爆発させて敵を攻撃させる)、「ゾンビ乱舞」(ゾンビを発狂させて敵を攻撃する)と、ネクロマンシーの極みのような呪文ばかり。最初に販売されたSS版ではゾンビシリーズの他に「罵倒」「極刑」「天罰」など物騒な名前の魔法が多く揃っていますが、後のリメイクや移植の際かなりマイルドに変えられてしまいました。それでもゾンビシリーズはほぼ続投な辺り、作り手の並々ならぬこだわりを感じます。

 

 開発元であるフライト・プラン社の倒産に伴い、PSアーカイブスからもタイトルが消えてしまったため今からプレイするには少々敷居が高いですが、挑戦的なシステム、ハードで陰鬱なシナリオに触れてみたい方におすすめの一本です。

 ちなみに主人公は幸薄そうな顔の少年で固定されていますが、救出対象のご主人さまは清楚な美少女、僕っ娘、ロリータファッション、幼女、女王様に加え、隠しコマンドで美少年 も選べます。発売当時は個性的なヒロインたちに加え、美少年のご主人さま・ゼロの人気も大変なものでした。

 

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