星をみるひと


1987年 日本

販売: ホット・ビィ

プラットフォーム: ファミリーコンピュータ

 記憶を失った状態で目覚めた主人公の少年・みなみ。

 自分の素性は何なのか、なぜこの場所で目を覚ましたのか、何一つとして彼に分かることはない。しかし、寄る辺なく旅を始めた彼の前に姿を現したのは武装した兵士や機械じかけの戦闘マシン、そして見るもおぞましい奇怪な生物たちだった。彼らが襲い来る理由はただひとつ、みなみはふつうの人間が持つことのない特殊な能力を備えた新人類「サイキック」であったから……。

 

 ファミコン全盛期に発売された、毀誉褒貶ありつつも一部の界隈で高い知名度を誇るRPGです。筆者は未プレイですが、ホット・ビィ社が過去に発売したPC-8801/FM-7用RPG「サイキックシティ」と同一の世界観上にあり、事実上の続編のようです。

 

 エンディングまで遊び終えて感じたのは、良くも悪くも、この作品が強烈な個性を備えているということでした。レトロゲームに明るいプレイヤーの間では、その苛烈な――序盤においては、文字通り命がけの――難易度と取っつきにくいユーザーインターフェイスで知られる本作ですが、一方で独自性の強いシナリオや設定、魅力的なグラフィック、音楽などには強く惹きつけられるものを感じます。

 

 いちプレイヤーとして感想を述べれば、確かに、戦闘バランスやシステムの面で快適とは言いがたい部分は多々見受けられました。上でもふれたとおり、スタート直後の戦闘は筆舌に尽くしがたい難易度です(即死級の高威力技を使う「ふっかつしゃ」や、致命的な状態異常攻撃を仕掛けてくる「さらまんど」に泣かされたプレイヤーは、きっと私だけではないでしょう)し、そうした序盤の難所を乗り越えた後も高エンカウント率と敵能力値のインフレーションは続きます。

 一方、システム面ではどうかといえば、コマンドキャンセル・逃走不可の戦闘、ゲームを再開するごとに一定量減少する経験値や所持金、極めてわかりにくいマップ同士のつながりなど、やはり粗削りな部分が目立ちます。これらの点はゲームを遊ぶ上で致命的な欠陥というわけではないのですが、先に述べたとおり極端な戦闘バランスと相まって、プレイの快適性を削ぐ要素になっているように思います。

 

 しかしながら一方で、本作には同時代の他社製品にない、先見的な部分が数多く存在するのも確かです。例えば、四人のプレイヤーキャラクターがそれぞれ持っている超能力は、戦闘以外の局面でもさまざまな効果を発揮します。主人公・みなみが得意な「ぶれいく」はフィールドの破壊可能な壁を壊すことができますし、仲間の一人・しばが操る「じゃんぷ」はダンジョンの構造を一部無視して移動することが可能です。また、後者については町への移動システムも兼ねており、ダンジョンの内部からであってもあらかじめ登録した地点に一瞬で転移できます。

 これらの能力は全てがゲームクリアに必須というわけではありませんが、プレイヤー側からダンジョンに干渉するシステムや、戦闘能力以外でキャラクターの個性を表現しようとする試みは、非常にユニークなものではないでしょうか。

 

 また、もうひとつ感銘を受けた部分としては、キャラクターレベルの上昇に伴い戦闘中のグラフィックが文字通り「成長」する点があります。冒険初期には脆弱で幼く見えたキャラクターが、数多くの窮地を潜り抜け、経験を積み、より高い戦闘能力を得るに従い、等身の高い姿へと変わってゆくのです。これらのキャラクターグラフィックが表示されるのは戦闘時のみですが、ステータスの単純な高低だけでなく、キャラクターの外見的な変化で成長を示した点は、この時代の作品としては非常に意欲的な試みだったようにも思えます。

 

 そして冒険の舞台となる世界についても、既存のファンタジーRPGとは一線を画すバックグラウンドを備えています。本作に登場する世界では、巨大コンピュータ「クルーⅢ」が人びとに対してマインドコントロールを施し、強制的に都市の治安を維持しています。しかし、人間たちの中にはごくまれに、この精神操作に耐性を持つ者が誕生することもあります。クルーⅢはこうした能力者を「サイキック」と名付け、ロボットやミュータント、兵士など多くの手駒を用いて、彼らを捕えようとするのです。こうした設定は高難易度に対する理由付けになっているとともに、無機質感と退廃の入り混じった本作独特の世界観を、NPCのセリフやイベントに拠らない手法で肉付けしているといえなくもありません。もっとも、そうした背景事情の多くは付属の取扱説明書で語られており、そちらに目を通さなければ言葉足らずに終わってしまうのが悩ましい点ですが……。

 

 発売から30年を経た今も、本作はあらゆる意味で個性に満ちた、唯一無二の作品として語られています。インターネットでタイトル名を検索すれば、本作についての毀誉褒貶入り乱れた解説、感想、レビューを数多目にすることができるでしょう。それらの多くはシステム面の完成度の低さや、先にも述べたとおり戦闘バランスの極端さを指摘するものですが、一方で、海外SF作品を思わせる設定、退廃とユーモアを併せ持つテキスト、叙情的なBGMへの評価など、本作を支持する意見が一定数存在するのも確かです。

 必ずしも万人に認められるわけではないものの、波長が合う人間を強く惹きつける味わい深さを持つ、それが「星をみるひと」の特徴なのかもしれない、と、宇宙の広がりを感じるエンディング画面を見ながら感じました。

 

 なお、非公式ではありますが、本作には有志の方が制作されたリメイク版フリーゲームが二つ存在します。いずれの作品も本作のエッセンスを異なる形で取り入れており、また、スクウェア・エニックス社の人気RPG「サ・ガ」シリーズの戦闘システムを導入しているのも大きな特徴です。どちらの作品もオリジナルと比べ難易度が控えめになっているため、本作の雰囲気に惹かれた方、内容に興味があるけれど敷居が高そうで躊躇している方は、まず下記のリメイクどちらかをプレイしてみると大まかな雰囲気を掴めるかもしれません。(参考までに、筆者は「ロマンシングステラバイザー」→「STARGAZER」→「星をみるひと」という順番でプレイしました)

 

STAR GAZER

(2005年リリース、GBサ・ガシリーズがベース)

 

ロマンシングステラバイザー

(2015年リリース、SFCロマンシング・サ・ガシリーズがベース)

 

 ※上記二作品については、後日プレイ感想を追加予定です。

 

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