梔子館の扉 制作後記


 このページでは、拙作「梔子館の扉(くちなしかんのとびら)」の制作にあたり、参考にした作品や制作過程などを(自分用の備忘録も兼ねて)記録しています。

 性質上、内容に関するネタバレを多く含みます。本編をプレイされていない方は、できましたら一度遊んでいただけますと幸いです。

制作のきっかけなど

  Twitter上で2016フリゲ展!theFINAL 夏 (以下「フリゲ展夏」と表記)について知り、参加したいと思ったことが直接のきっかけになります。ゲーム作り自体はCardWirth、RPGツクールなどで多少経験していましたが、完成してもごく内輪の友人にしか公開しなかったため、ウェブ上で発表したフリーゲームはこれが第一作となりました。

 

 フリゲ展夏の応募規約に制約が少なく、未完成品や体験版でも参加可能、と明記してあったことも、制作期間中大きな励みになりました。できる限り完成版のデータを提出するよう心がけていましたが、正式版でなくても参加可能というハードルの低さのおかげで、余計なプレッシャーを感じず済みました。

 

作業について

  プロット未満の案は2016年7月中旬ごろにいくつかまとめましたが、具体的な作業を始めたのはそれから一月ほど後になります。8月14~20日の1週間でテキストの下書き を行い、21日~25日の間に清書・ゲームデータの作成・複数人でのテストプレイを行った後、最終チェックを経て8月28日に提出しました。

 

 制作期間中はテストプレイヤーのBROSSOさん、wamisuさんのお二方に大変お世話になりました。特にBROSSOさんには企画の初期段階から関わっていただき、テキストに合わせる画像素材ファイル選びや加工なども担当していただきました。ご本人の言によりテストプレイヤーとさせていただいていますが、作業量からすると共同制作者にあたるようにも思います。wamisuさんにも複数回のテストプレイ、音量や文章表現についてたくさんのご助言をいただき、とても助かりました。

 

 制作中、一番時間がかかった作業はテキスト内容の推敲です。一度書いた文章を何回も修正する習慣がなかったため、画像やBGMの切り替えに文章が合っているか、句読点の表示される場所が適切か、表現がわかりにくくないか、など細かくチェックするのに予想以上の時間をかけてしまいました。

 

 最終的な内容についてはほぼ満足していますが、本編中でBGMとして使用させていただいた音楽を他の場所で聞くと、たまにテストプレイ期間を思い出して落ち着かなくなります。もし次作を作る機会があれば、もっとスムーズに作業ができるよう精進したいところです。

 

コンセプトなど

  制作にあたって意識したのは、おもに以下の三点でした。

 ①短時間で遊びきれる内容のゲームにする

 ②ホラー表現/不快感の強い描写を極力省く

 ③プレイ中の没入感を高める

 

 制作当初からこのゲームを「短い時間で気持ちよく終わる内容にしたい」と考えていたため、企画を詰めていく段階で周回や分岐、隠しエンディングなど、網羅しようとすると時間がかかる要素はすべて省きました。あまり複雑な内容にすると製作中に頓挫する可能性があったため、完成させやすい作りにしたかったという動機もあります。

 

 恐怖表現や不快な描写については、プレイされる方に気持ちいい読後感を味わってもらいたかったため、なるべく入れないように努めました。恐怖や不快を覚える範囲は人によって異なるところですが、突然の脅かしやグロテスク、生理的嫌悪感をあおる描写は可能な限り抑えたつもりです。ホラー映画やゲームはとても好きなので、いずれそういった方向性の作品も作ってみたいとは思いますが……。

 

 また、プレイされる方の没入感を高めるため、ゲーム内のテキストは案内人の一方的な語りかけで構成されています。梔子館を訪ねた人間のセリフはエピローグにのみ存在し、具体的な性格や性別についてはプレイされた方の想像にお任せしています。同様に、案内人の外見・性格・性別・年齢などのデータも、こちらでは一切決めていません。

 

 梔子館そのものの佇まいについても、後の項目通り幾つかの作品から影響を受けています。ただ、やはり具体的な来歴やイメージは設定していないので、あの館が昔ホテルで……というような由来も特にありません。作中で「梔子館の姿は訪れた者の数だけ存在する」としたように、プレイされた方それぞれが思い描く館と案内人がいればいいな、と思っています。

 

影響を受けた作品

  ゲーム内のテキストを書くにあたり、影響を受けた作品は以下の通りです。

 

 短編ドラマ「時のないホテル」         「世にも奇妙な物語」 より 1990.7.26放映

 短編ドラマ「13番目の客」            「世にも奇妙な物語」 より 2001.1.1放映

 楽曲「Hotel California」                 EAGLES、1977

 映画「CURE」                        黒沢 清 監督、1997

 ゲーム「TERRORS」 最終シナリオ           バンダイ、1999 (WonderSwan) 

 

 多くの方がご存知の通り、「世にも奇妙な物語」はオムニバス形式のテレビドラマです。現在は特別番組として有名な同シリーズは、当初54分のレギュラー番組として放映されていました。このレギュラー期間の最初期に放映された、「時のないホテル」という短編ドラマが梔子館の主要なイメージのもとになっています。時の流れの異なる場所、騒々しい現実と切り離された世界、といった要素や、作中の穏やかな雰囲気が、梔子館のおおもとになったといっても過言ではありません。

 

 また、同シリーズからもう一本、「13番目の客」というエピソードもイメージのもとになっています。このエピソードには有名なアイドルグループのお一人が出演されていただけに、ご存知の方も多いのではないでしょうか。こちらも時の流れから隔絶した空間をテーマとしていますが、「時のない~」と全く違う結末が見どころです。「梔子館の扉」が最後に読み手を突き放すような結末を迎えるのも、このドラマの影響を受けているせいかもしれません。

 

 その他に影響を受けた作品として、EAGLESの名曲「Hotel California」、映画「CURE」、そしてコンシューマーゲーム「TERRORS」の最終シナリオがあります。Hotel Californiaからはメロディと歌詞の内容、CUREおよびTERRORSからは、それぞれに登場する建物の雰囲気に影響を受けています。

 「梔子館の扉」は初期案のひとつでは真昼の廃墟を探索する内容だったのですが、もしこの路線で制作を続けていたら、より後者二つのビジュアルに影響を受けていたかもしれません。

 

ボツになった部分

  テキスト書き起こしの段階では、物語の途中にいくつかの分岐を挟む予定でした。公開版の第四話「猫のいる書斎」は、元々「姿の見えない猫」と「読みたい本が現れる書斎」の二話それぞれで別の話を書くはずだった名残です。また、エンディングも現在の内容に加え、館の主人からとある誘いを受けるパターンがありました。

 

 ただ、上記については周回(またはセーブデータを使っての読み直し)をしないとすべてのパターンが見られず、息抜きのためのゲームを二回も読ませること自体がコンセプトに反していたため、実装には至りませんでした。館主エンドの内容に若干のホラー要素や唐突さがあったことも、ボツの理由です。

 

 上記の要素については何らかの形で再利用したいと思っているので、もしかしたらそのうち改稿版として公開することもあるかもしれません(現時点ではまったく未定ですが……)。

 

最後に

  「梔子館の扉」は短いゲームですが、多くの方のご助力ご厚意なくしては完成しませんでした。

 ゲーム制作ツールの開発者様、画像・音楽・効果音素材の提供サイト様、2016フリゲ展!theFINAL 夏主催者様、そしてこのゲームを遊んでいただき、感想・改善案などご意見をお寄せくださった皆様に、改めて厚く御礼申し上げます。今後の予定は特に考えていませんが、もし次作を公開する機会があれば、お手に取っていただけますと幸いです。

 

 

 

BACK